前に述べましたように減損会計の適用に際しては最初にどの範囲の固定資産等で減損の有無を判定し、減損損失を測定するのかという資産のグルーピングを行います。
その後次のようなステップで減損会計の処理を行っていきます。
(1)減損の兆候の認識
(2)減損損失の認識
(3)減損損失の測定
今号では上記の(2)減損損失の認識について解説していきます。
減損損失認識は、資産または資産グループについて割引前将来予想キャッシュフローの総額と帳簿価額とを比較して、減損損失を測定するかどうかを判定するステップです。
具体的には「減損の兆候がある資産または資産グループについての減損損失を認識するかどうかの判定は、資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することによって行い、資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識します」(基準2(1))。
割引前将来予想キャッシュフローとは、資産または資産グループが将来において生み出すと予想されるキャッシュフローを時間価値を考慮せずに、単純に合計したものです。
換言しますと、割引率で割り引いて現在価値を算定することはしません。
割引をしない理由は、減損損失の測定には様々な不確定要素が介在せざるを得ないため、減損が明らかに相当程度生じている資産または資産グループについてのみ、減損損失の測定を行うと考えているためです。
つまり、将来予想キャッシュフローは割り引かなければ割引した場合よりも大きな額となります。
そのため、割引をしないキャッシュフローが帳簿価額を下回っていれば減損損失は相当程度確実に生じていると考えることができることになるからです。
また、見積りが恣意的にないらないために、将来キャッシュ・フローを見積もる際には、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積る必要があります。
具体的には、資産または資産グループの現在の使用状況及び合理的な使用計画等を考慮することになります(注4、5)。
将来予想キャッシュフローは文字通り、フローの額ですから、予想する期間がどれくらいなのかが問題となります。
この見積期間に関して、減損会計基準は「減損損失を認識するかどうかを判定するために割引前将来キャッシュ・フローを見積る期間は、資産の経済的残存使用年数または資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方とする。」(基準2(2)) としています。
また、将来予想キャッシュフローの見積はかなり不確定要素が入るため、資産または資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20 年を超える場合には、20年経過時点の回収可能価額を算定し、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに加算します。
ここでポイントとなるのは
(1)主要な資産とは何か
(2)経済的残存耐用年数とは何か
(3)主要な資産が20年を超えて使用できる場合、その見積はどうするのか
という点です。
主要な資産とは、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産をいいます。
つまり、その資産がなくては資産グループのキャッシュフローに大きな影響を与える資産を意味します。
経済的残存耐用年数とは、税法(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)で規定する耐用年数に基づく残存耐用年数ではなく、あくまでその資産をあと何年にわたり経済的に使用可能であるかを企業が見積るものです。
ですが、実務ではほとんどの企業は減価償却費の計算を税法の耐用年数に基づいて行っていることから、著しく相違があるなどの不合理と認められる事情のない限り、税法の耐用年数を基に計算した残存耐用年数を用いることができます(摘要指針21)。
資産グループ中の主要な資産についてその経済的残存使用年数が20年を超える場合もあるかもしれません。
この場合には「21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに基づいて算定された20年経過時点における回収可能価額を、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに加算します」(減損会計基準摘要指針18(2))。
なお、回収可能価額とは、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいいます(適用指針28)。
簡単に言いますと、正味現在価値とは資産などを売却して得られる手取り額で、使用価値とはその資産が将来生み出すであろうキャッシュフローを現在価値(例えば20年経過時点)に割り引いたものです。
減損会計特有の用語です。
よって、以上より割引前将来予想キャッシュフローの額は20年目までの割引前将来キャッシュフローの額に、20年経過時点での主要な資産の回収可能価額および主要な資産以外のその他の資産の回収可能価額となります。
なお、話がより複雑になるのを防ぐため、「20年経過時点での主要な資産以外のその他の資産の回収可能価額」については解説を省略しています。