このページではキャッシュフロー計算書の作成に関して一般的な疑問や問題などをとりあげて Q&A形式で記載していきます。
記載内容に関しましては関連法規への遵法性等を含めました的確性及び現実の業務との適合性などには十分留意いたしますが、万が一おかしな記載がありましたら、御指摘していただけるよう御願いいたします。
営業キャッシュフローには固定資産売却益が表示されていますが、とすると固定資産売却益の金額によって営業キャッシュフローの額が異なることになり、なにかおかしいような気がしますがどうなんでしょうか。
確かにキャッシュフロー計算書(間接法)には、損益計算書に固定資産売却益が計上されていれば営業キャッシュフローに固定資産売却益がマイナスで計上されます。
そのため、一見するとご質問のような疑問がわくと思います。
ですが、営業キャッシュフローのトップ項目は税引前利益(連結の場合は名称が異なります)となっており、そのなかには固定資産売却益が計上されているはずです。
つまり、固定資産売却益は税引前利益の内訳としてプラスで計上され、その後に独立表示としてマイナス計上されることによって、結果的には相殺され、その額は「0」となっているのです。
よって、キャッシュフロー計算書(間接法)の営業キャッシュフロー区分には固定資産売却益が表示されますが、その額は営業キャッシュフローの額には影響は与えないことになります。
これは固定資産廃棄損などの科目についても同様です。
間接法によるキャッシュフロー計算書で、営業キャッシュフローの項目はなぜ、あのような項目が並ぶのでしょうか。
なにかごちゃ混ぜな項目が並んでいてさっぱり理解できません。
営業キャッシュフローの考え方を教えてください。
キャッシュフロー計算書を間接法で作成した場合、営業キャッシュフローの内容はよくわからないものになっています。
それはありきたりの言い方をすれば、キャッシュフローを間接的に表示しているからなのです。
「間接的に」とはキャッシュフローを伴わない項目を使って迂回的にキャッシュフローを算出し、表示しているということです。
よくキャッシュフロー計算書の書籍を見ますと、営業キャッシュフローの項目について、次のような書き方をしています。
(1)減価償却費のような非資金的費用は営業キャッシュフローに表示する。
(2)固定資産売却益(損)のような特別損益の項目は営業キャッシュフローに表示する。
(3) ・・・・・・・・・・・・・・・・・
(4) ・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかし、このような書き方では(1)から(4)までの体系的な理解と、果たして細かく言えば(5)に上げられる項目はないのかと不安に思ってしまいます。
要するに(1)から(4)までで全部なのかということです。
私の場合の営業キャッシュフローに表示される内容は次のように考えています。
それは、「営業活動によるキャッシュフロー」と、「投資・財務キャッシュフロー区分に表示される固定資産勘定や借入金勘定の取引パターンのうち、キャッシュを伴わない取引パターンであり、また、投資・財務キャッシュフローに表示される項目をキャッシュを伴う項目のみに限定し、表示することにより、投資・財務キャッシュフローに表示できなくなった取引パターンである」となります。
取引パターンとは有形固定資産であれば購入・売却・除却・減価償却費などの取引類型のことです。
余計にわかりにくくなりましたか、実際に作成してみればそれほどでもないですよ。
当社はキャッシュフロー計算書を作成する義務はないのですが、会社の状況をよく把握するため、金融機関にもキャッシュフロー計算書を提出することを考えて作成しようと考えています。
そのために、キャッシュフロー計算書の様式は何を参考にして他社は作成しているのかを教えてください。
キャッシュフロー計算書は上場企業においては作成義務があり、そのため大蔵省(現在は金融庁)が財務諸表の作成方法等を規定した「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」にその雛形が記載されています。
また、「連結キャッシュフロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書」(企業会計審議会)がさらに詳細な作成基準を示しています。
ですが、作成義務がないのでしたら市販のキャッシュフロー計算書に関する書籍、またはインターネットの上場会社ホームページにその会社の有価証券報告書をPDFファイルで誰でもダウンロードできるようにしており、その中にキャッシュフロー計算書が記載されています。
それらを参考にすれば十分だと思います。
なお、上場会社の有価証券報告書に記載されているキャッシュフロー計算書は連結ベースが多いと思いますのでその点にだけご留意ください。
また、中小企業がキャッシュフロー計算書を作成しようとする場合、一般的な営業・投資・財務というキャッシュフローの順序ではなく、営業・財務・投資という順番に記載することも意味があると思います。
つまり、本業からの儲けから借入金の返済をした後にどれだけのキャッシュが残り、そのうちどれだけを設備投資に回せるかの判断材料となるためです。
要は作成・提出義務がないのでしたら、経営者の判断材料となるような工夫を自由に凝らすべきということです。
キャッシュフロー計算書は貸借対照表2期分と損益計算書1期分があれば作成できますか。
キャッシュフロー計算書は貸借対照表2期分と損益計算書1期分からでも作成できることはできます。
しかし、それだけではかなりアバウトなものになってしまい 、ときには誤解を招くこともあります。
具体例を使って説明しましょう。
前期末の土地が1000、当期末の土地が2000、貸借対照表に計上されていたとします。
これだけでキャッシュフローを計算する投資キャッシュフロー△1000となり、キャッシュが1000出ていったということになります。
ですが、土地を期末に購入して支払が翌期だとすると、支払は起きておらず、当然投資キャッシュフローもゼロとなります。
どちらが正確なキャッシュフローを現すかはいうまでもないのですが、そのためには未払金の明細を見なければわからないということです。
そして、上記の土地の設例を貸借対照表と損益計算書だけでキャッシュフロー計算書を作成しますと、次のようになります。
営業キャッシュフロー 1000
投資キャッシュフロー △1000
営業キャッシュフローの増加とは未払金の増加のことです。
このようなキャッシュフロー計算書を作成しますと、キャッシュフロー全体ではゼロで実態とも合っているのですが、営業キャッシュフローが本来はゼロであるにもかかわらず、1000生じたこととなり、誤解を招いてしまいます。
さらに別の理由ですが、機械の購入と売却の両方がある場合、2期分の貸借対照表差額から計算されるのは購入金額と売却簿価との差額です。
購入と売却それぞれのキャッシュフローはわかりません。
また、借入金も同様です。
借入金は通常の場合、返済と調達の両方が一事業年度中にありますが、貸借対照表差額から計算されるのは返済と調達の差額で、返済と調達それぞれの金額はわからないのです。
以上のように、キャッシュフロー計算書は貸借対照表2期分と損益計算書1期分だけでも作成できないことはありませんが、より正確に現状の企業活動を反映するように作成しようと考えるのでしたら、その他に次の資料が必要となります。
・増減明細表(有価証券、固定資産、借入金など)
・勘定明細(未収入金、未払金など)
・株主資本等変動計算書
なお、キャッシュフロー計算書は直接法による作成方法と、間接法による作成方法とがあります。
貸借対照表2期分と損益計算書1期分から作成する方法は間接法による作成方法です。
キャッシュフロー計算書 を作成する場合、未払金などの勘定明細がなければ正確なキャッシュフロー計算書が作成できないことはわかりました。
そうしますと勘定明細等が入手できない外部者がキャッシュフロー計算書を作成するのは無理ということになりますか。
まず、勘定明細等がないと、キャッシュフロー計算書作成に当たってどう支障を来すのかといいますと、例えば営業キャッシュフローと投資キャッシュフローとの間で「入り繰り」が起きる可能性があるということです。
具体的には設問「キャッシュフロー計算書の作成資料(その1)」をご覧下さい。
営業キャッシュフローはキャッシュフローの中でも最も中核をなすものであり、通常はフリーキャッシュフローの大部分を占めるものですから、営業キャッシュフローが見誤ることは避けるべきと考えます。
また、企業、特に未公開企業の場合、表示科目名を変えることも希でありません。
例えば前年度は未払法人税と未払消費税とを区分して表示していましたが、当年度は未払消費税を未払法人税に含める、または未払金に表示したということもあり得ます。
そうしますと、未払法人税に含めたケースですと、当期末の未払法人税の金額が大きくなり、営業キャッシュフローの「法人税の支払額」がプラスのキャッシュフローとなってしまうということも起こり得ます。
以上のことを考えますと、会計士や税理士のように企業の資料を閲覧できる立場の外部者、もしくは企業に資料提供を要請できる外部者以外の方がキャッシュフロー計算書を作成するときは上記のような誤解を招くキャッシュフロー計算書を作成するおそれがあることを念頭に置かれた方がいいのではないかを考えます。
キャッシュフロー計算書の作成方法には直接法と間接法とがあるといいますが、その違いは何ですか。
また、キャッシュフロー計算書を何社か見てみたのですがすべて間接法で作成されていました。
実務ではどちらの方法が多く採用されているのですか。
キャッシュフロー計算書の作成方法(表示方法と言われる方が多いですが)には直接法と間接法とがあります。
両者の違いは営業キャッシュフローの表示の違いにあります。投資キャッシュフローおよび財務キャッシュフローは両者とも同じです。
違いは表示の違いであり、営業キャッシュフロー金額が異なることはありません。
具体的には直接法では例えば売上代金の入金額が「商品代金の入金額」というように内容がほぼそのままの名称で表示されるのに対して、間接法では「売上債権の増減額」というように売上代金の入金額という「フロー」が売上債権の増減というように「ストック」の増減で表示されるという違いがあるということです。
次に会計実務では直接法と間接法のどちらが多く採用されているかということですが、推測ですがほとんどの企業が間接法によってキャッシュフロー計算書を作成していると思われます。
その理由を考えてみます。
直接法は営業キャッシュフロー金額を「売上代金の入金額」や「仕入代金の支払額」というようにフローの金額、換言しますと日々繰り返される膨大な取引金額を集計して表示します。
そのため、その膨大な取引の中から売上代金の入金額を示す取引をモレなく、かつ、間違いなく集計するのはかなり大変なことになります。
仕訳でいいますと売掛金の減少が売上代金の入金額が大部分を占めるとしても、売掛金の減少にはその他に手形による債権回収、貸倒れ、為替差損、さらには記帳間違いによる修正も含まれます。
これらの様々な取引パターンごごとに間違いなくキャッシュフロー計算書作成のための属性を付与することはかなり大変ということです。
当初は間違えなくても、期中で新たな仕訳パターンが発生することも十分ありえます。
さらには日々の膨大な取引金額を集計して営業キャッシュフロー金額を間違いなく表示しているかどうか検証するのも作成に負けず難しいということが指摘できます。
以上のような理由から実務的にはほとんどの場合、間接法によるキャッシュフロー計算書となっていると考えられます。
投資キャッシュフローや財務キャッシュフローではキャッシュの増加と減少とを総額で表示するために会計仕訳を間違えて訂正仕訳を入力したときなど、増加と減少の金額がそれぞれ実際より膨らんでしまいます。
元帳を見て手修正をすればいいのでしょうがそれも面倒なような気がします。
いい方法はないでしょうか。
キャッシュフロー計算書では営業キャッシュフローは純額で表示されますが、投資ならびに財務キャッシュフローは総額で表示されます。
そのため、借入金の返済を1000行ったときに仕訳を誤って1200と入力し、その後赤黒方式で修正すると次のように(1)と(2)の仕訳分だけ実態よりつ財務キャッシュフローの金額が増加と減少ともども1000増加してしまいます。
(1)誤仕訳 借方:(借入金) 1200 貸方:(銀行預金)1200
(2)取消仕訳 借方:(銀行預金)1200 貸方:(借入金) 1200
(3)正仕訳 借方:(借入金) 1000 貸方:(銀行預金)1000
この増加と減少の両膨らみにしないためには次のように赤黒仕訳を入力すれば簡単に解決できます。
(1)誤仕訳 借方:(借入金) 1200 貸方:(銀行預金) 1200
(2)取消仕訳 借方:(借入金)△1200 貸方:(銀行預金) △ 1200
(3)正仕訳 借方:(借入金) 1000 貸方:(銀行預金) 1000
私は飲食店を営業してします。
そのため、売上は現金で受け取り、仕入は掛けで支払っていますのでキャッシュフロー計算書は特に作成しなくてもよいと考えていますがいかがでしょうか。
確かに飲食店のように現金商売であれば「利益あって銭足らず」のような、いわゆる黒字倒産のおそれは少ないと思います。
ですが、ご自分の事業で例えば1ヶ月、1年の期間でどれだけのキャッシュが生み出せているのかをみるにはキャッシュフロー計算書を作成することをお勧めします。
このキャッシュ創出力が把握できれば新規店舗開店の際、どのくらいの期間で投下資本を回収できるのか、どのくらい借入をすればいいのか、また、新規出店数とスピードをどのぐらい考えておけばいいのかが明らかになってきます。
そのため、今後、事業の拡張を考えておられるならキャッシュフロー計算書の作成されたらいかがでしょうか。
「利益は意見、キャッシュは事実」というような言葉があると思いますが、そうしますとキャッシュフロー計算書は企業が自社の有利となるようには恣意的な操作はできないと考えていいのでしょうか。
企業が前期末や当期末に持っている現金預金の残高は誰がカウントしても同じになるはずですので、前期末現金預金と当期末現金預金とのキャッシュの流れを示すキャッシュフロー計算書も計算間違いなどがなければ誰が作成しても同じということができると思います。
その意味では恣意性はないといっていいでしょう。
しかしながら、外注先などの支払代金で3月末に支払うのを4月1日にすればキャッシュフロー(営業キャッシュフロー)は改善します。
また、同じ趣旨ですが手形期日が事業年度の末日でかつその日が休日だったとします。
そのケースの手形の処理は①末日が期日だから入金されていなくてもその日に会計処理をする、②実際の入金日(手形交換日)に会計処理をするという、2つの会計処理方法が考えられます。
そのため、受取手形については①の方法、支払手形については②の方法で会計処理をすればその分キャッシュフロー(営業キャッシュフロー)が改善されます。
以上のことを考えればキャッシュフロー計算書も恣意的な姿にすることはできるといえます。
それでは上記のような操作を意味のないものにするにはどうしたらいいかと言いますと、キャッシュフロー計算書を年度ではなく、月次で作成してもらい、横並び(月次比較、特に3月・4月)で分析すればいいでしょう。
よく在庫を圧縮すればキャッシュフローが改善されると言われますが、それでは過剰在庫を廃棄したり、安値処分してもキャッシュフローは改善されるのでしょうか。
廃棄損を出したりすると利益が少なくなり、キャッシュフローも悪化するような気がするのですがいかがですか。
言葉で説明するよりも数字を使って設例で考えてみることにします。
税引き前利益が10,000、棚卸資産の前期末残高が3,000、同じ当期末残高が5,000、法人税等の実効税率を40%とします。
以上の数値を基にキャッシュフロー計算書を作成してみますと下記のようになります。
ケース1は棚卸資産の廃棄損が0、ケース2は棚卸資産の廃棄損が500、ケース3は棚卸資産の廃棄損が1,500のキャッシュフロー計算書(営業キャッシュフロー)です。
それぞれ営業キャッシュフローで異なりますが、営業キャッシュフローの差額は棚卸資産廃棄損の差額に法人税等の実効税率40%を乗じたものとなっていることにわかると思います。
また、どのケースでも「税引き前利益と棚卸資産の減少額の合計」は同じく8,000となっていることに気づかれたでしょうか。
つまり、キャッシュフロー計算書の構造から見れば棚卸資産廃棄損の発生は損益計算書を通じて税引き前利益を減少させますが、同時に貸借対照表の棚卸資産金額を減少させることによってプラスのキャッシュフローを生みだします。
その結果、税引き前利益と棚卸資産の減少額の合計はプラスのキャッシュフローとマイナスのキャッシュフローとが相殺しあい合計額は変わらないわけです。
そして、合計額は同じでも税引き前利益が少なくなるほど法人税の支払いが少なくなり、その分のキャッシュフローの増加が起きているということになるわけです。
ケース1 | ケース2 | ケース3 | |||||
営業キャッシュフロー | 営業キャッシュフロー | 営業キャッシュフロー | |||||
税引き前利益 | 10,000 | 税引き前利益 | 9,500 | 税引き前利益 | 8,500 | ||
棚卸資産の減少 | -2,000 | 棚卸資産の減少 | -1,500 | 棚卸資産の減少 | -500 | ||
法人税の支払い | -4,000 | 法人税の支払い | -3,800 | 法人税の支払い | -3,400 | ||
合計 | 4,000 | 合計 | 4,200 | 合計 | 4,600 |
ただし、税引き前利益がゼロ以下になるような廃棄損を計上しても、その場合には法人税の税額はゼロ以下にはなりませんので、その場合はキャッシュフローは増加しません(繰越欠損金とか税効果会計は考えないことにします)。
以上から棚卸資産や固定資産の廃棄損を計上しても利益がマイナスとならないのであればキャッシュフロー創出のために、思い切った不良資産の整理をするのも有効な方法だと思えます。
ただし、その場合、事前に金融機関等に説明を行い、「(一時的に)利益が少なくなるがキャッシュフローは増加する」旨の説明を行っておく必要があるでしょう。