高度成長の頃は日本企業が重視してきましたのは売上高経常利益率です。すなわち、人・モノ・金を際限なく新規事業や新製品開発に投資し、シェアを確保し、売上高を増大させ、経常利益を増加させていくというものです。
しかしながら、バブル崩壊までは時価発行増資により、タダ当然に株主から資金調達することができ、貸借対照表の総資産を膨らませてきましたが、バブル崩壊により有価証券や不動産の暴落等により、貸借対照表は多額の含み損(不良債権)を抱えた「傷んだ貸借対照表」となってしまいました。
「傷んだ貸借対照表」のままでは企業の実態が外部からは伺いしれず、担保価値の下落が生じ、金融機関や投資家は企業の実態がわからないため、資金調達は困難となっていました。また、企業を取り巻く環境も外国人・個人株主の増加、国際会計基準の国内基準への取り入れ(金融商品会計、退職給付会計、減損会計等)等により、簡単にいってしまえば損益計算書重視から貸借対照表重視となってきました。
つまり、いくら利益を上げていても多額の不良債権を抱えていて実質債務超過であればいつ企業が倒産してもおかしくないからです。
そうした時代の流れともにCalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)に代表されるような株主主権の動きが広がり、株主が供出した資金に対してどれぐらいの利回りを上げていくかと測定する指標が求められ、それが資本コスト(特に株主資本コスト)に繋がってきました。
資本コストとは資本(資金)を調達するためのコストで、他人資本を調達するためのコスト(支払利息)と株主資本を調達するためのコスト(株価上昇期待率・配当)からなります。
資本コストはそうした資金調達コストとなりますので、企業にとっては「最低限確保すべき投資利益率」ともなります。
資本コストで特に問題となるのは株主資本コストです。つまり、他人資本コスト(有利子負債コスト)は支払利息等で企業から実際に支払われ、損益計算書に計上されるのに対して、株主資本コストは「株価上昇期待率」は証券市場での話であり、配当は企業はその資金は拠出しますがそれは費用ではなく剰余金の処分であるため、株主資本コストの「コスト」の説明が難しいからです。
設備投資を行うための調達源泉は特にひも付きでない限り借入金なのか増資資金なのかはわかりませんので、総資本から設備投資資金を調達したと考えます。そのため、資本コストは加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)を用います。
WACCの計算におけるポイントは次の通りです。
・他人資本と自己資本との金額割合に応じて加重平均します。
・借入金等の負債利子には「1-実効税率」を乗じてキャッシュベースとします。
・株主資本コストの計算では企業価値の評価は株主の期待収益率を考慮することが多いです(CAPM)。