このページでは管理会計の最も基礎的で重要な概念である変動費と固定費について解説していきます。
変動費とは売上高や操業度によって比例的に増減する費用のことです。
一方、固定費とは短期間では売上高や操業度の増減と関係なく一定に発生する費用のことです。
変動費の具体例としては直接材料費、固定費の具体例としては機械の減価償却費などがあります。
人件費は正社員は固定費、パートタイマーは変動費となるのが通常のケースです。
現実には、直接材料の購入量が増えれば増えるほど値引き等による単価の引下げが起こることも多いかもしれません。
そのため、必ずしもこの場合には直接材料費は(使用量に応じて)比例的に増減しません。
企業は事業年度ごとに日々の取引を積み上げて決算書を作成しています。
決算書作成のためには費用を固定費と変動費とに区分する必要はありません。
費用が発生した日付と金額を記録すればいいわけです。
ですが、経営者が経営計画や予算を作成するときなど、売上高や利益との関係をシュミレーションしてみたくなると思われます。
そのようなときには決算書を作成するためのデータだけでなく、費用を変動費と固定費とに区分して把握する必要が出てくるのです。
つまり、利益が例えば1000来期は必達目標としたら、販売数量や販売価格、製造原価(変動費)、製造原価(固定費)の数字を動かしながら、最も達成度合いが高い数量、価格、費用の組み合わせを探すというときに費用を変動費と固定費とに区分する考え方が必要となるというわけです。
売上高と利益とのシュミレーションの例としては次のものがあげられます。
(1)A製品の販売数量が10%増加(減少)したら、利益はいくらになるのか
(2)B製品の販売価格が5%増加(減少)したら、利益はいくらになるのか
(3)既存設備を利用して新製品Cを生産・販売したら利益はいくらになるのか
(4)利益を伸ばすためにはA製品とB製品のどちらを多く生産・販売すればいいのか
(5)売上の低迷しているD製品の生産・販売を中止したら利益はどうなるのか。
費用と変動費と固定費とに区分した場合の損益計算書は次の通りになります。
売上高 ***
△変動原価 ***
限界利益 ***
△固定費 ***
利 益 ***
売上高から変動原価を差し引いたものは「限界利益」といわれます。
製品1個を追加的に売り上げたときに限界的に増加する利益というイメージで捉えればいいでしょう。
数学でいう微分にあたります。
それでは実際に費用を変動費と固定費とに区分するにはどのようにすればいいのかを考えてみましょう。
直接材料費は変動費、正社員の人件費は固定費というように費用項目ごとに分類します。
このときに留意することはあまり厳密に考えるのではなく、自社にとってあまり煩雑な事務処理にならないようにすることです。
例えばビスやナットは製品ごとに比例的に消費されると思いますが、ビスなどの消費量を製品ごとに把握するのはけっこう煩雑な事務作業が必要となります。
そのため、費目の性格ではビス等は変動費となりますが、実務上は固定費として扱うということでいいでしょう。
ただし、分類することが事務的には煩雑でも、それを上回る効果が期待できるという場合には変動費として扱うという考えがあっても当然けっこうです。
変動費や固定費とに費用項目を分類しても、それらの費用を製品・製品グループごとに区分しないと実務的にはあまり役立ちません。
製品グループごとの採算やシュミレーションできなければ施策も焦点が定まらず、効果的なものにならないからです。
変動費等を製品・製品グループに分けるには製品・製品グループごとに計算区分上だけでも部門設定を行い、データの発生時に部門ごとに計上するという方法があります。
会社の組織上は部門を設けていなくても、会計上、A製品グループは第1部門、B製品グループは第2部門と計算区分をするための部門設定を行うというものです。
このような方法を採用することで財務会計上のデータを管理会計のデータとして利用することできます。
また、工場の減価償却費のようにどれか特定の製品グループに分類するのが適当でない費用(共通費用といいます)は例えば生産スペースの面積割合などで製品グループごとに配賦するようにします。
ある企業では生産量と製造原価の関係が下表のようになったとします。
表の「1~5」は月でも事業年度でもどちらで考えてもかまいません。
Excelのグラフ機能を利用してX軸:生産量、Y軸:製造原価としたグラフを描いてみます。
グラフの種類は「散布図」を選択します。目盛りは適当に調整してください。
そして、グラフが描けましたら、グラフ中の点を右クリックしますと「近似曲線」を引くことができます。
散布図に近似曲線を描いたのが下のグラフです。
Excelで描かれた近似曲線を引き伸ばして、Y軸と交差したところが生産量0のときの製造原価、つまり、固定費と考えることができるわけです。
上のグラフはサンプル数が少ないので実際とは誤差もかなり生じるかもしれませんが、サンプル数が増えればおおよその自社(ある製品)の変動費と固定費との区分がわかると思います。
このとき、注意すべき点としては異常な費用の発生は除外することです。
例えば常時使用している材料が手当てできなかったために、代替材料を使用したら機械との相性が合わず、大量の仕損が発生した、などです。