連結財務諸表においては連結グループ会社間の取引は内部取引とみなされますので、その取引はなかったものとして消去(相殺消去)の対象となります。
そのため、取引高の消去仕訳を起こしますが(前号で解説)、決算日においてその連結グループ会社間の取引により仕入れた棚卸資産在庫があり、その在庫金額に利益がオンされている場合にはその利益は内部取引により生じたもので、その利益が実現していないものとして消去することになります。
具体的には連結グループ会社A社に連結グループ会社B社から仕入れた棚卸資産1000があり、そのうち200がB社がオンした利益であるとき、この200はあくまで連結財務諸表上は内部利益であり消去しなければならないということです。
そして、このときの消去仕訳は次のようになります。
借方:(売上原価)200 貸方:(棚卸資産)200・・・・・(イ)
この仕訳の考え方は次の通りです。
(1)貸方の棚卸資産200はわかりやすいですよね。
棚卸資産の個別財務諸表上の金額は1000だけれども、連結財務諸表上の金額は800だから200減額します。
したがって、貸方に棚卸資産200となります。
(2)借方ですが、例示で説明します。
期首棚卸資産800で当期仕入高5000としますと、個別財務諸表上の売上原価は4800(=期首800+仕入5000-期末1000)となります。
一方、連結財務諸表上の売上原価は5000(=期首800+仕入5000-期末800)となり、売上原価は連結上200増加させる必要があるため、借方に売上原価200となるわけです。
棚卸資産の内部利益消去仕訳が上記のようになると納得した後は覚えてしまってください。
上で、説明しましたように連結グループ会社A社に連結グループ会社B社から仕入れた棚卸資産1000があり、そのうち200がB社がオンした利益であるとき、連結財務諸表上、次のような棚卸資産の未実現利益の消去仕訳が必要となります。
借方:(売上原価)200 貸方:(棚卸資産)200・・・・・(イ)
実はこの1行で仕訳が完結するのは親会社から連結子会社への売却取引(いわゆるダウンストリーム)よる棚卸資産の場合です。
反対に連結子会社から親会社への売却取引(いわゆるアップストリーム)の場合で、連結子会社に少数株主(外部株主のことです)が存在する場合には上記の1行の仕訳だけでは不十分となります。
つまり、売却側のB社の利益は連結上は上記(イ)の仕訳が付加されることにより売上原価という費用が200多くなり、利益が200減少します。
そのため、B社が連結子会社であり少数株主がいる場合、少数株主にこの利益の減少分を負担してもらう必要があるためです。
その結果、アップストリームの場合、棚卸資産の未実現利益消去の仕訳は次のようになります。
少数株主持分比率は20%とします。
借方:(売上原価) 200 貸方:(棚卸資産) 200
. (少数株主持分)40 (少数株主持分損益)40 ・・・(ロ)
少数株主持分損益という連結上の勘定科目をここで初めて登場させてしまいましたので、少しわかりにくいかもしれませんので、少し説明を入れます。
連結財務諸表は連結会社の財務諸表を合算して作成すると説明しました。
そのため、各連結会社の損益計算書も合算します。
このとき、連結子会社に少数株主が存在した場合、合算だけですと本来は少数株主に帰属する連結子会社の利益が計上されないことになります。
そのため、少数株主に帰属する部分の振替仕訳が必要となります。
ここまで数字を使って説明してみましょう。
親会社の利益10000、連結子会社の利益を2000、連結子会社の少数株主持分が20%とします。
まず合算作業で合算財務諸表の利益の金額は12000となります。
ですが、説明しましたように400(=2000×20%)がその連結集団には帰属せず、少数株主に帰属する部分です。
そのため、少数株主に帰属する部分の振替仕訳として次の仕訳を行います。
借方:(少数株主持分損益)400 貸方:(少数株主持分)400・・・(ハ)
こうした仕訳を起こすことで合算した利益12000を連結集団11600、少数株主400に配分するわけです。
少数株主持分とは連結貸借対照表の負債の部と資本の部との間に表示される少数株主に帰属する金額(請求権)を意味します。
ここで棚卸資産の未実現利益消去の話に戻りますと、上記(ハ)の仕訳でまず連結子会社の利益のうち、少数株主持分に帰属する部分の仕訳を起こします。
そして、棚卸資産の未実現利益の消去などのように連結子会社の利益が修正される場合に上記(ロ)の仕訳を起こすというわけです。
(ハ)と(ロ)では仕訳の貸借が逆になっていることを確認してください。
もっと単純化して言いますと、(ハ)の仕訳で少数株主の持分を増加させ、(ロ)で減少させているということです。
しつこいですが、私の説明の流れで少数株主持分の増加の話をせずに、減少の話を棚卸資産の未実現利益の話でしてしまったために、少数株主持分への利益の振替について解説したということを確認しておきます。
未実現利益消去は棚卸資産に限られず、固定資産でも生じます。
すなわち、連結子会社が機械メーカーで親会社がその子会社から機械を購入して製造活動に使っているケースです。
この場合にも親会社の機械の取得価額に連結子会社の利益がオンされていればその利益部分は連結財務諸表作成上、内部利益として購入年度に消去します。
なお、固定資産の場合、より正確に言いますと減価償却資産の場合には購入年度の次年度以降も連結修正仕訳が必要となります。
つまり、数字を使って説明しますと子会社の製造原価8000、親会社の取得価額10000としますと2000は未実現利益として購入年度に消去します。
ですが、機械の取得原価は減価償却手続により費用化され、実現したと考えられます。
減価償却は定額法で残存価額ゼロとしますと、個別上は減価償却費は2000(=10000÷5)ですが、連結上の減価償却費は1600(8000÷5)となり、連結財務諸表作成上はその差額400だけ修正仕訳を起こす必要があるということです。
そして、この減価償却費の修正仕訳は機械を親会社が企業集団外に売却したときは売却時まで、売却を行わなかったときは耐用年数の5年にわたり行うことになります。